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長崎地方裁判所 昭和57年(ワ)471号 判決 1984年9月21日

原告

井手節男

ほか二名

被告

長門石重信

主文

一  被告らは各自原告井手節男に対し金九九万〇〇五六円、原告竹尾香に対し金二二万六八五五円及び右各金員に対する昭和五四年九月九日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告井手節男及び原告竹尾香のその余の請求並びに原告井手恵子の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告井手節男と被告らとの間に生じた分はこれを一〇分し、その三を被告らの、その余を同原告の各負担とし、原告井手恵子と被告らとの間に生じた分は同原告の負担とし、原告竹尾香と被告らとの間に生じた分はこれを六分し、その一を被告らの、その余を同原告の各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告井手節男に対し金三二〇万四四一五円、原告井手恵子に対し金八〇万〇八一〇円、原告竹尾香に対し金一三三万一五八八円及び右各金員に対する昭和五四年九月九日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  原告らの請求が認容される場合には、担保を条件とする仮執行免脱の宣言

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五四年九月九日午前九時四五分ころ

(二) 場所 福岡県久留米市善導寺町飯田五一二番地先路上

(三) 加害車両 自家用軽乗用車(久留米五〇あ二七六)

(1)右所有者 被告長門石重信(以下「被告重信」という。)

(2)右運転者 被告長門石寿枝(以下「被告寿枝」という。)

(四) 被害車両 自家用普通乗用自動車(大分五五わ九三一)

(1)右運転者 訴外馬場泰博

(2)右同乗者 原告ら

(五) 被害者 原告ら

(六) 態様 右路上において被害車両が信号待ちのため停車していたところ、加害車両が被害車両の後部に追突してきたものである。

2  責任原因

(一) 被告重信は、本件事故当時加害車両を所有しこれを自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、本件事故によつて生じた原告らの後記損害を賠償する責任がある。

(二) 被告寿枝は、同被告運転の加害車両の前方に信号待ちのため被害車両が停車していたのであるから、前方を注視して自車の進路前方の安全を確認すべき注意義務があつたのに、これを怠り漫然と同一速度で進行した過失により本件事故を引き起こしたものである以上、民法七〇九条に基づき、本件事故によつて生じた原告らの後記損害を賠償する責任がある。

3  損害

(一) 原告井手節男(以下「原告節男」という。)について左記合計金六二二万七一一七円

(1) 治療関係費 金三万八四五九円

原告節男は、本件事故により腰部捻挫・腰臀部打撲及び外傷性左肩腕症候群の傷害を受け、このため、昭和五四年九月一〇日から同年一〇月二四日までの四五日間(実通院日数一七日間)入江外科医院に、同年九月一八日から昭和五五年一一月一四日までの四二四日間(実通院日数一〇〇日間)山口整骨院に、同年一二月四日から昭和五六年五月三一日までの一七九日間(実通院日数二五日間)平島外科医院にそれぞれ通院して治療を受けた。

右通院治療に伴う損害は次のとおりである。

(イ) 治療費

平島外科医院 金一万二九三九円

(ロ) 文書料

入江外科医院 金四〇〇〇円

山口整骨院 金八〇〇〇円

平島外科医院 金四〇〇〇円

(ハ) 通院費

入江外科医院までの往復タクシー料金五六〇円に実通院日数一七を乗じた金九五二〇円

(2) 休業損害(その一) 金一四〇万一七六〇円

原告節男は、肩書地において酒類販売業を営んでいるが、本件事故による前記受傷のため休業を余儀なくされ、次のとおりの休業損害を被つた。

(イ) 本件事故前である昭和五三年の右営業による売上金額は金五〇二八万〇三五四円であり、これに飲食料品小売業の平均営業利益率一五・五パーセントを乗じた金七七九万三四五四円が同年の営業利益になるところ、本件事故の発生した昭和五四年の右売上金額は金四七五七万六三五〇円であり、したがつて同年の営業利益はこの金額に右利益率を乗じた金七三七万四三三四円となる。

(ロ) よつて、昭和五三年の営業利益から昭和五四年のそれを差し引いた金四一万九一二〇円が同年の休業損害となる。

(ハ) 次に、昭和五五年の右売上金額は金四七四五万六〇一一円で、同年の営業利益はこの金額に前記利益率を乗じた金七三五万五六八一円となるべきところ、これは同年五月に酒類を平均一二パーセント(年間に引き直すと八パーセント)値上げした分を含む数値であるから、右値上げを考慮しない売上金額は同年の右売上金額を一・〇八で除した金四三九四万〇七四〇円となり、したがつて右値上げを考慮しない営業利益はこの金額に前記利益率を乗じた金六八一万〇八一四円となる。

(ニ) よつて、昭和五三年の営業利益から昭和五五年の右値上げを考慮しない営業利益を差し引いた金九八万二六四〇円が同年の休業損害となる。

(3) アルバイト給料 金三五万円

原告節男は、本件事故による前記受傷及び治療のため配達等の力仕事ができなくなつたので、前記治療期間中である昭和五四年九月一〇日から同年一二月三一日までの間、家業の酒店の手伝いとして給料月額金一〇万円(ただし九月分は金五万円)でアルバイトを雇つた。

(4) 後遺症による逸失利益 金一〇六万四一九六円

原告節男は、症状固定後も腰部捻挫・腰臀部打撲及び外傷性左肩腕症候群の後遺症が残り、右後遺症は、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一四級に該当するものと認定された。

同原告は、右後遺症により労働能力を五パーセント喪失し、その期間は三年とみるのが相当であるから、前述した昭和五三年の営業利益金七七九万三四五四円を基礎とし、年五分の割合による中間利息をホフマン方式により控除して(係数二・七三一)、後遺症による逸失利益の本件事故当時の現価を求めると、金一〇六万四一九六円となる。

(5) 慰謝料(その一) 金二〇〇万円

本件事故による前記受傷の部位・程度、前記治療経過、前記後遺症の内容のほか、本件事故当時原告節男夫婦は家業の酒店を営業し、右当時小学校六年の長女を頭に同四年と二年の幼い子供を抱えている状況の中で、本件事故により夫婦二人共が負傷してしまい、右酒店の営業及び幼い三人の子供らの養育にも支障を来したことなどを勘案すると、同原告の精神的苦痛は極めて大きく、これに対する慰謝料は金二〇〇万円が相当である。

(6) 休業損害(その二) 金一二二万二七〇二円

原告節男は、本件事故による後遺症の腰部椎間板障害のため、昭和五八年一〇月六日長崎原爆病院整形外科で受診し、同年一一月八日から昭和五九年一月二八日までの八二日間同病院に入院し、退院後の現在も通院治療中である。右入通院により同原告が被つた休業損害は、次のとおり少なくとも金一二二万二七〇二円となる。

(イ) 同原告の営む酒類販売業による昭和五七年一月から同年一〇月までの総売上高は金三八四三万七二九八円であり、昭和五八年一月から同年一〇月までの総売上高は金三九九六万八七九八円であるから、その伸び率は約四パーセントとなる。

(ロ) 他方、右営業による昭和五七年一月から同年一〇月までの総仕入高は金三五六九万二六五四円であり、昭和五八年一月から同年一〇月までの総仕入高は金三九四六万九〇八四円であるから、その伸び率は約一一パーセントとなる。

(ハ) ところで、昭和五七年一一月及び同年一二月の総売上高は金一五八八万四二四八円であつたのに対し、同原告が入院した昭和五八年一一月及び同年一二月の総売上高は金一四四二万〇八四一円に減少し、他方、右期間中の総仕入高は金七九六万四三〇八円であつたので、右期間中の現実の利益は金六四五万六五三三円にとどまつた。

(ニ) しかし、前記(イ)、(ロ)の伸び率で昭和五八年一一月及び同年一二月のあるべき売上高、仕入高を計算すると、それぞれ金一六五一万九六一七円、金八八四万〇三八二円となるので、右期間中のあるべき利益は金七六七万九二三五円となる。

(ホ) ところが、現実の利益は前記(ハ)のとおり金六四五万六五三三円であつたので、同原告は、結局、その差額である金一二二万二七〇二円の休業損害を被つたこととなる。

(7) 慰謝料(その二) 金一八〇万円

原告節男は、右(6)のとおり後遺症の手術のため八二日間入院し、退院後の現在も通院中であるので、その入通院慰謝料は金一八〇万円を下らない。

(8) 損害の填補 金一九五万円

原告節男は、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から金一九五万円の支払を受けた。

(9) 弁護士費用 金三〇万円

(二) 原告井手恵子(以下「原告恵子」という。)について左記合計金八〇万〇八一〇円

(1) 治療関係費 金九万一七五〇円

原告恵子は、本件事故により外傷性頸部症候群及び腰臀部痛の傷害を受け、このため、昭和五四年九月一〇日から同年一〇月一一日までの三二日間(実通院日数九日間)入江外科医院に、同年九月一七日から昭和五五年一二月八日までの四四九日間(実通院日数二八日間)山口整骨院に、同年五月一三日から同年一二月三〇日までの二三二日間(実通院日数五〇日間)松添医院に、同月四日から昭和五六年六月六日までの一八五日間(実通院日数四一日間)平島外科医院にそれぞれ通院して治療を受けた。

右通院治療に伴う損害は次のとおりである。

(イ) 治療費

入江外科医院 金三一〇五円

山口整骨院 金七六八九円

松添医院 金二万〇三九四円

平島外科医院 金二万一五二二円

(ロ) 文書料

入江外科医院 金四〇〇〇円

山口整骨院 金八〇〇〇円

松添医院 金四〇〇〇円

平島外科医院 金八〇〇〇円

(ハ) 通院費

入江外科医院までの往復タクシー料金五六〇円に実通院日数九を乗じた金五〇四〇円と松添医院までの往復バス料金二〇〇円に実通院日数五〇を乗じた金一万円との合計金一万五〇四〇円

(2) 休業損害 金六七万八四〇〇円

原告恵子は、本件事故により実通院日数一二八日間の休業を余儀なくされ、本件事故当時の同原告の年齢である三七歳の女子の平均月収は金一五万九〇〇〇円であるから、同原告の休業損害は金六七万八四〇〇円となる。

(3) 慰謝料 金一〇〇万円

原告恵子は、本件事故による受傷の治療に前記のとおり長期間を要し、著しい精神的苦痛を受けた。これに対する慰謝料としては金一〇〇万円が相当である。

(4) 損害の填補 金一〇六万九三四〇円

原告恵子は、自賠責保険から金一〇六万九三四〇円の支払を受けた。

(5) 弁護士費用 金一〇万円

(三) 原告竹尾香(以下「原告竹尾」という。)について

左記合計金一三三万一五八八円

(1) 治療関係費 金一〇万三五六九円

原告竹尾は、本件事故により外傷性頸部症候群の傷害を受け、このため、昭和五四年九月一〇日から同年一〇月二九日までの五〇日間(実通院日数七日間)入江外科医院に、同年九月一八日から昭和五五年一一月一七日までの四二七日間(実通院日数二〇日間)山口整骨院に、同年五月一三日から同年九月三〇日までの一四一日間(実通院日数二八日間)松添医院に、同年一一月二八日から同年一二月一〇日までの一三日間(実通院日数二日間)長崎大学医学部附属病院に、同月三日から昭和五六年一一月五日までの三三八日間(実通院日数一一三日間)諸岡整形外科医院にそれぞれ通院して治療を受けた。

右通院治療に伴う損害は次のとおりである。

(イ) 治療費

入江外科医院 金三六六〇円

山口整骨院 金三〇八五円

松添医院 金一万三七八二円

長崎大学医学部附属病院 金一五四八円

諸岡整形外科医院 金二万七一一四円

(ロ) 文書料

入江外科医院 金四〇〇〇円

山口整骨院 金八〇〇〇円

松添医院 金四〇〇〇円

諸岡整形外科医院 金六〇〇〇円

(ハ) 通院費

入江外科医院までの往復タクシー料金五六〇円に実通院日数七を乗じた金三七八〇円と松添医院、長崎大学医学部附属病院及び諸岡整形外科医院までのそれぞれの往復バス料金二〇〇円に実通院日数合計一四三を乗じた金二万八六〇〇円との合計金三万二三八〇円

(2) 後遺症による逸失利益 金一七万一八八九円

原告竹尾は、昭和五六年一一月五日に症状が固定したが、外傷性頸椎症の後遺症が残り、右後遺症は、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一四級に認定されてしかるべきものである。

同原告は、本件事故当時高校に在学中の一六歳であり、高校卒業後は就職して収入を得る見込みであつたところ、右後遺症により労働能力を五パーセント喪失し、その期間は三年とみるのが相当であるから、一八歳女子の平均年収金一二五万八八〇〇円を基礎とし、年五分の割合による中間利息をホフマン方式により控除して(係数二・七三一)、後遺症による逸失利益の本件事故当時の現価を求めると、金一七万一八八九円となる。

(3) 慰謝料 金二〇〇万円

原告竹尾は、高校在学中、進学クラスに所属していたが、本件事故がもとで学校を休むことが多くなり成績も下がつたために進学を断念せざるを得なくなつた上に、就職先も思うに任せず、多大な精神的苦痛を被つた。右のような事情に加え、本件事故による受傷の部位・程度、治療経過、後遺症の内容をも勘案すると、同原告の精神的苦痛に対する慰謝料としては金二〇〇万円が相当である。

(4) 損害の填補 金一〇四万三八七〇円

原告竹尾は、自賠責保険から金一〇四万三八七〇円の支払を受けた。

(5) 弁護士費用 金一〇万円

4  よつて、被告ら各自に対し、原告節男は前記金六二二万七一一七円の内金三二〇万四四一五円、原告恵子は前記金八〇万〇八一〇円、原告竹尾は前記金一三三万一五八八円及び右各金員に対する本件事故発生の日である昭和五四年九月九日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実中、(一)ないし(五)は認める。(六)のうち、加害車両が被害車両の後部に追突したことは認める。

2  同2の事実中、(一)のうち、被告重信が本件事故当時加害車両を所有していたことは認めるが、その余は否認する。(二)のうち、被告寿枝が加害車両を運転していたことは認めるが、その余は否認する。

3  同3の事実中、本件事故と原告ら主張の傷害・後遺症との間の因果関係は否認する。原告らが自賠責保険からその主張する金額の支払を受けたことは認める。その余は知らない。原告節男主張の休業損害・後遺症による逸失利益の算定方法は争う。

4  同4は争う。

三  抗弁

1  被告寿枝は、昭和五五年一二月三日原告恵子に対し、損害賠償の一部として金五万円を弁済した。

2  被告寿枝は、昭和五五年一二月三日から昭和五六年五月八日までの間に、原告竹尾の法定代理人竹尾篤子に対し、合計金一八万円を損害賠償の一部として弁済した。

四  抗弁に対する認否

いずれも認める。

第三証拠

証拠関係は本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりである。

理由

一  事故の発生

請求の原因1の(一)ないし(五)の各事実及び同(六)の事実中加害車両が被害車両の後部に追突したことについては当事者間に争いがなく、同(六)のその余の事実についても成立に争いのない甲第九号証の一ないし二〇、証人竹尾篤子の証言、原告節男・同恵子・同竹尾及び被告寿枝各本人尋問の結果によればこれを肯認することができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

二  責任原因

被告重信が本件事故当時加害車両を所有していたことは当事者間に争いがなく、他に特段の主張立証もないから、同被告は本件事故当時加害車両の運行供用者であつたと認めるべきである。

次に、被告寿枝が加害車両を運転していたことについては当事者間に争いがなく、前記一の認定事実に前掲各証拠を総合すると、請求の原因2の(二)のその余の事実を肯認することができ(右認定を左右するに足る証拠はない。)、これによれば、本件事故は被告寿枝の過失により発生したものであることが明らかである。

したがつて、被告重信は自賠法三条に基づき、同寿枝は民法七〇九条に基づき、それぞれ本件事故によつて生じた原告らの後記損害を賠償する義務がある。

三  損害

1  原告節男について

(一)  治療関係費

前記一の認定事実に加え、成立に争いのない甲第一号証の一ないし七、第四号証、原告節男本人尋問の結果によると、請求の原因3の(一)の(1)の事実をすべて認めることができる。

なお、被告らは右に認定した同原告の傷害と本件事故との間には因果関係がない旨主張し、原告恵子本人尋問の結果によれば、原告節男は昭和四四年ころから酒類販売業を自営しており、職業柄、重量物の配達、運搬等をする関係で、本件事故以前においても肩や腰の痛みを訴えることがあつたことが窺えないわけではないけれども、他方、入江外科医院及び山口整骨院に対する各調査嘱託の結果によると、同原告が本件事故以前に右各病院に入通院などして治療を受けた事実は皆無であることが認められるのであつて、この認定事実に同原告本人尋問の結果を合わせ考えれば、前認定の同原告の傷害は本件事故に起因するものと推認するのが相当である。他に右推認を覆すに足る的確な証拠は見当たらない。

したがつて、同原告は治療関係費として金三万八四五九円の損害を被つたものと認められる。

(二)  休業損害

前掲甲第一号証の一ないし七、成立に争いのない甲第六、第七号証、第一〇ないし第一二号証に原告節男及び同恵子各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告節男は同恵子と共に昭和四四年ころから肩書地で酒類販売業を営んできたが、本件事故後、腰椎部や頸椎部の運動痛及び左腕部の痺れ感などを伴う前記受傷のため、屈伸運動や重量物の運搬等が困難となり、その結果、店頭での販売よりも配達による販売を主力とする右営業に支障を来すこととなつたこと、本件事故前である昭和五三年の前記営業による売上金額は金五〇二八万〇三五四円であつたが、本件事故の発生した昭和五四年のそれは金四七五七万六三五〇円に、昭和五五年のそれは金四七四五万六〇一一円にそれぞれ減少したこと、この間の昭和五五年五月には酒類の価格が平均一二パーセント(年間に引き直すと八パーセント)値上がりしたこと、飲食料品小売業の全国平均営業利益率は売上金額の一五・五パーセントであること、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定事実に徴し、前記営業による営業利益を各年の前記売上金額に前記利益率を乗じて求めると、昭和五三年分が金七七九万三四五四円、昭和五四年分が金七三七万四三三四円となる。

また、昭和五五年分については、同年の売上金額中には前記のとおり酒類の価格の値上げ分を含むものであるところ、通常、酒類について価格の値上げがあつた場合、ある一定の期間は消費者の買控えがあり、その結果、この値上げ幅がそのまま売上金額の増加につながるものでないことは経験則上明らかであつて、この点を勘案すれば、前記値上げによる同年中の売上金額の増加分としては前記値上げ幅の五割程度と評価するのが相当であるから、結局、前記値上げを考慮しない営業利益は、同年の前記売上金額を一・〇四で除して得られる金四五六三万〇七七九円に前記利益率を乗じた金七〇七万二七七〇円になるというべきである。

そうすると、前記営業による営業利益は、昭和五三年に比較して、昭和五四年につき金四一万九一二〇円、昭和五五年につき金七二万〇六八四円、それぞれ減少したものというべきこととなる。

ところで、前認定のとおり原告節男は同恵子と共に前記営業を営んでいるところ、前掲甲第一〇号証によれば、昭和五三年分の所得申告における原告恵子の専従者給与が同号証記載の営業利益に占める割合はほぼ三割であることが認められ、これによれば、前記営業に占める原告節男の寄与率は七割と評価するのが相当であるから、前述した昭和五四年及び昭和五五年の営業利益の減少額合計金一一三万九八〇四円に右寄与率を乗じて得られる金七九万七八六二円をもつて同原告が本件事故により被つた休業損害と認める(なお、前掲甲第一〇号証中には同原告の昭和五三年分の所得金額を記載した部分があるけれども、一般に自営業者が所得を申告するに当たつては必要経費を過大に計上することが稀ではないことに鑑みれば、右申告所得金額をもつて直ちに同原告の実際の所得金額とすることには躊躇せざるを得ない。これに対し、前記営業に占める同原告の寄与率を求めるについて、右のとおり同号証を参酌することは許されるものと考える。そして、他に以上の認定及び判断を左右するに足る的確な証拠は見当たらない。)。

(三)  アルバイト給料

前記(二)の認定事実に成立に争いのない甲第五号証及び原告節男本人尋問の結果を総合すれば、請求の原因3の(一)の(3)の事実を認めることができるけれども、他方、前掲甲第一〇、第一一号証及び同尋問の結果によれば、同原告は、前記営業のため従前より盆暮の繁忙期にはアルバイトを雇つていたこと、昭和五三年分及び昭和五四年分の各所得申告に当たつては、アルバイトに対する給料として、それぞれ金五六万円、金七六万六〇〇〇円が計上されていることが認められるから、右各認定事実を合わせ考えれば、同原告が本件事故により支出を余儀なくされたアルバイト給料としては、右金七六万六〇〇〇円と金五六万円との差額である金二六万六〇〇〇円をもつて相当と認める。

(四)  後遺症による逸失利益

成立に争いのない甲第一四号証、共栄火災海上保険相互会社に対する調査嘱託の結果及び原告節男本人尋問の結果によれば、同原告は、本件事故による前記受傷の結果、昭和五六年六月二日の症状固定後も外傷性左肩腕症候群の後遺症が残り、右後遺症は、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一四級一〇号に該当するものと認定されたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定事実に徴すれば、同原告は、右後遺症によりその労働能力の五パーセントを右症状固定日から二年間にわたつて喪失したものと認めるのが相当であるから、前記(二)に認定した昭和五三年の前記営業による営業利益金七七九万三四五四円に同原告の前記寄与率を乗じて得られる金五四五万五四一七円を基礎とし、年五分の割合による中間利息をホフマン方式により控除して(係数一・八六一四)、後遺症による逸失利益の本件事故当時の現価を求めると、金五〇万七七三五円となる。

(五)  慰謝料(その一)

原告節男の本件事故により被つた前記受傷の部位・程度、前記治療経過、前記後遺症の内容のほか、同原告及び同恵子各本人尋問の結果により認めうる本件事故以後の営業及び家族状況をも勘案すると、原告節男が本件事故により受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては、金一二〇万円をもつて相当と認める。

(六)  休業損害(その二)及び慰謝料(その二)

成立に争いのない甲第一六号証及び証人中山哲晴の証言によれば、原告節男は、本件事故から四年を経過した昭和五八年九月ころになつて腰痛を訴え、同年一〇月六日長崎原爆病院整形外科で受診した結果、腰部椎間板障害と診断され、同年一二月一日にその手術を受けたことが認められるけれども、同号証及び同証言によつても本件事故と右障害との間に因果関係があるものと認めることには躊躇を感じざるを得ないし、他に右因果関係の存在を首肯するに足る証拠は見当たらない。

してみれば、その余の点について判断するまでもなく、同原告は被告らに対し、同原告が請求の原因3の(一)の(6)及び(7)で主張する各損害の賠償を求めるべき筋合いのものではないというべきである。

(七)  損害の填補

請求の原因3の(一)の(8)の事実については当事者間に争いがない。

(八)  弁護士費用

原告節男が本件訴訟の提起・追行を原告訴訟代理人らに委任していることは記録上明らかであるところ、本件訴訟における事案の内容、就中、未填補の損害額、訴訟追行の難易度その他諸般の事情に照らして考えると、本件事故と相当因果関係のある損害として同原告が被告らに対して請求しうる弁護士費用は、金一三万円をもつて相当と認める。

(九)  以上によれば、原告節男が被告らに対して請求しうべき損害額の合計は、金九九万〇〇五六円となる。

2  原告恵子について

(一)  治療関係費

前記一の認定事実に加え、前掲甲第四号証、成立に争いのない甲第二号証の一ないし一二に原告恵子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、請求の原因3の(二)の(1)の事実をすべて認めることができ、これによれば、同原告は治療関係費として金九万一七五〇円の損害を被つたものと認められる。

(二)  休業損害

右(一)の認定事実に原告恵子本人尋問の結果を合わせれば、同原告は、原告節男と共に前記営業を営んできたものであるところ、本件事故による前記受傷のため休業を余儀なくされたことが認められる。そして、前記三の1の(二)に示した認定及び判断に徴すれば、原告恵子が本件事故により被つた休業損害額は、前記営業による昭和五四年及び昭和五五年の営業利益の減少額合計金一一三万九八〇四円から原告節男の休業損害額金七九万七八六二円を控除した残額である金三四万一九四二円をもつて相当と認める。他に以上の認定及び判断を左右するに足る的確な証拠は見当たらない。

(三)  慰謝料

原告恵子の本件事故により被つた前記受傷の部位・程度、前記治療経過に照らせば、同原告が本件事故により受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては、金六〇万円をもつて相当と認める。

(四)  損害の填補

請求の原因3の(二)の(4)及び抗弁1の各事実については当事者間に争いがない。

(五)  弁護士費用

以上によれば、原告恵子が本件事故により被つた右(一)ないし(三)の損害額の合計金一〇三万三六九二円はすべて填補されていることとなるから、同原告は本件事故と相当因果関係のある損害として本件訴訟の提起・追行に伴う弁護士費用を被告らに対し求めるべき筋合いのものではないというべきである。

3  原告竹尾について

(一)  治療関係費

前記一の認定事実に加え、成立に争いのない甲第三号証の一ないし一一に証人竹尾篤子の証言及び原告竹尾本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、請求の原因3の(三)の(1)の事実をすべて認めることができ、これによれば、同原告は治療関係費として金一〇万三五六九円の損害を被つたものと認められる。

(二)  後遺症による逸失利益

前掲甲第三号証の一ないし一一、成立に争いのない甲第一五号証に証人竹尾篤子の証言及び原告竹尾本人尋問の結果を総合すれば、同原告は、本件事故当時高校に在学中の満一六歳であつたが、本件事故による前記受傷の結果、昭和五六年一一月五日の症状固定後も外傷性頸椎症の後遺症が残り、右後遺症は、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一四級に認定されてしかるべきものであることが認められ、右認定を覆すに足る証拠は見当たらない。

右認定事実に徴すれば、同原告は、右後遺症によりその労働能力の五パーセントを二年間にわたつて喪失したものと認めるのが相当であるから、成立に争いのない甲第八号証により認めうる一八歳女子の平均年収額金一二五万八八〇〇円を基礎とし、年五分の割合による中間利息をホフマン方式により控除して(係数一・八六一四)、後遺症による逸失利益の本件事故当時の現価を求めると、金一一万七一五六円となる。

(三)  慰謝料

原告竹尾の本件事故により被つた前記受傷の部位・程度、前記治療経過、前記後遺症の内容のほか、証人竹尾篤子の証言及び同原告本人尋問の結果により認めうる本件事故以後の就学状況をも勘案すると、同原告が本件事故により受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては、金一二〇万円をもつて相当と認める。

(四)  損害の填補

請求の原因3の(三)の(4)及び抗弁2の各事実については当事者間に争いがない。

(五)  弁護士費用

原告竹尾の法定代理人竹尾等及び同竹尾篤子が本件訴訟の提起・追行を原告訴訟代理人らに委任していることは記録上明らかであるところ、本件訴訟における事案の内容、就中、未填補の損害額、訴訟追行の難易度その他諸般の事情に照らして考えると、本件事故と相当因果関係のある損害として同原告が被告らに対して請求しうる弁護士費用は、金三万円をもつて相当と認める。

(六)  以上によれば、原告竹尾が被告らに対して請求しうべき損害額の合計は、金二二万六八五五円となる。

四  結論

以上の次第であつて、原告らの本訴請求は、被告ら各自に対し、原告節男について金九九万〇〇五六円、同竹尾について金二二万六八五五円及び右各金員に対する本件事故発生の日である昭和五四年九月九日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、右原告両名のその余の請求及び原告恵子の請求はいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用し、なお仮執行免脱の宣言はこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 土肥章大)

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